【第15回】今回は原価管理のための実績収集の話です
今回は原価管理のための実績収集について記していきます。
原価管理といえば、標準原価の算出方法や最適な原価管理の方法の検討が必要です。原価管理を検討する段階に於いては、この算出するために様々な情報を収集しなければなりません。今回はこの情報の収集の仕方や情報活用の方法を記していきます。
まず原価管理で大切なことは、管理は何のために行うかということです。
経営面からみると原価管理というのは費用の管理です。売上に対して費用を適切にコントロールし、利益を生み出します。費用の管理方法は、管理業務と会計業務で異なります。つまり財務会計用のデータなのか管理会計用なのかということを明確にします。
財務会計の場合は外部の公表が目的ですので、費用は法律や会計原則に基づいて処理しなければなりません。管理会計のように自社の経営の意思決定のために原価管理を行うので有れば、必要なデータが異なってきます。
また、生産管理ということだけを考えても、「原価(費用)」つまり「コスト」だけを管理してはいけません。納期を遵守しながら品質も確保して、コストを適切にするというバランスを考えなければなりません。
多くの製造業で行われているのは、売上の計画立案だけでなく原価の計画、つまり原価目標を設定しています。
売上目標と利益目標が決まれば、売上から利益を引いた原価について目標設定することができます。
ITシステムを導入して原価を管理するというのは、個別製品ごとの原価を算出するということだけではなく、会社経営全体において利益が出ているかということを把握することが望まれます。
原価の把握は工場や製造現場の全体的な生産性を考慮した上で、全体の生産性の向上の他、ボトルネックとなっている部分の解消し、個々の改善だけでなく全体最適から個別部分を改善していくという動きをするきっかけづくりになります。
原価の切り口は3Mで考える
原価管理の切り口としては、マン、マシン、マテリアルの3Mの考え方から始めます。
生産性の指標を考える上では、まず「マン」の切り口である労働生産性があります。人件費に対してどれだけ付加価値をあげることができたかを測ります。
中小企業は正社員だけではなく、時間を固定したパートやアルバイトによる生産も少なくありません。このため残業時間の増加が、人件費の増加に繋がります。となると、残業をできるだけ行わないということが経営からみたコスト削減の方法です。
残業を少なくすることを考えると、予定時間通りに完了したかと言う管理が重要になります。
残業を減らす管理を行うためにITを使うにはどのようにするかを示します。
これは、他のシステムの活用と同様に、以下の3つが考えられます。
- データを蓄積する
- 蓄積したデータを分析する
- 分析をもとに改善活動をする
データの蓄積には手動で蓄積する方法と自動で蓄積する方法があります。
原価管理の基本は、「誰が何時間生産したか」と、「どの機械が何時間で生産したか」というデータを蓄積します。
中小企業の製造業では、製造工程が印刷された製造指示書に、実績を手書きで記入し、業務終了後にその紙を回収して、業務担当者や入力担当者がエクセルに入力して集計するという方法がよくあります。
これは「日報」や「作業記録」という言い方で多くの生産現場では行われています。
この「日報」の運用がうまくいかない製造現場があります。これは、作業時間を何かの業務ごとに集計している現場であれば良いのですが、単純に何時から何時まで働いたからこの作業で、1日何時間仕事をしたと言う集計を行っている場合があるからです。
例えば、マウンテンゴリラのプロマネを使った場合は、エクセル表に入力するイメージで日報画面の各項目に入力していくと自動的に実績集計ができます。できるだけ入力を簡単にして現場の方が入力をするというのが実績収集の第一歩です。
段取り時間の把握に取り組んでみる
日報は、同じ作業をしているのならば比較的簡単に記録や入力を始められます。しかし、日々異なる製品を作り、違う作業を行う企業もあります。この時鍵になるのは段取り時間です。
人の作業時間を蓄積することで人件費などの原価が計算できます。人が段取りをしている作業時間と機械を動かしている時間を含めて作業の時間が原価になります。
基本的には段取り時間と言うのは何かを生み出していません。なにも生み出していない時間なので削減する必要があります。削減しようとするとその段取り時間を把握しなければなりません。
このことから、原価実績の把握のために製品の作業時間と、その作ろうとしている製品の段取りの時間を把握します。
手動で把握する場合は、時計を見て何時からその作業を始め、作業の開始と終了時に時間を記録して蓄積します。しかし作業現場では1分でも早く製品を作ろうとするため、その記帳を忘れてしまいがちです。
データを蓄積するとためには、作業者が作業の開始と終了時にストップウォッチを押すようなイメージでスタートストップを明示的にアクションしなければなりません。
よく行われている方法としては、作業指示伝票に何の作業かを示すバーコードを表示しておき、作業者がそのバーコードを読み取ることで作業の開始終了を蓄積します。
上記のデータの蓄積方法は単一作業の場合に有効的です。
しかし、多能工の場合は少し難しくなります。例えば、作業者 A が第2工程を1分行い、第1工程を5分行い、第3工程を3分行った場合です。短時間で作業を変えていくため、そのたびごとに開始と終了のボタンを自分で押すと言うのは面倒です。さらにそのボタンを押すと言う作業自身の時間も不必要に加算されます。1分1秒を争うような作業をしている方にボタンを押すと言う動作を依頼するのは本末転倒になってしまいます。
この場合は、第一工程から第3工程までのすべての作業が出来上がったということを確認し、何分でその作業を終えたかということをまとめてデータとして蓄積すると言うことが精一杯です。
機械の稼働時間の把握に取り組んでみる
マシンすなわち機械の生産性を図る上では、設備設備の生産性や設備の稼働率を取得すると原価のための実績把握ができます。
機械の稼働時間を蓄積するのは、人よりも少し簡単です。
機械のオンとオフが、それぞれ、生産を行っている時間とそうでない時間というふうにみなすことができるならば、機械のオンとオフの動作の状況を取得すれば良いのです。
機械の仕様によりますが多くの場合は何時間稼働したかということを、その機械上のモニターに示したり、データとして出力するという機能が備わっています。データとして出力される場合はそのデータをネットワークや USB などで取得すれば良いのです。
しかしモニター表示されるだけの場合は少し困難です。この場合、最近の画像認識のソフトを使って表示されている数値を読み取るということができます。画像認識による数値の読み取りはまた別途 IoTのところで詳細に述べたいと思います。
まずはデータを蓄積するために、機械であればデータを取得できるということです。
機械からデータを容易に取得できるのであれば、機械の操作の種類により人の作業記録の代わりにできます。
具体的に言うと、機械が止まっている時間のうち、「電源をオンにした状態で扉を開けている場合」は「段取り作業」をしているということに割り当てて、時間を測定します。これによりこれまで測定しにくいと思われていた段取り作業時間を取得することができます。
これは機械を停止させないとできない、内段取り時間の測定に有効です。
少し把握しにくいのが、機械を止めなくてもできる外段取り時間の取得です。
段取り時間は機械を止めずに別の作業を行うことです。このためその作業を開始した終了したという合図や操作を、機械のスイッチと連動することができません。この場合は人の作業状況を取得することを考えていく必要があります。
例えば人感センサーを使って人がその場にいるという状況と、機械の動作状況を組み合わせて段取り時間の把握をするという方法が考えられます。
これらのように人の時間を把握することができれば労務費の把握になります。また機械の時間を把握することで稼働率の把握ができます。
労務費と機械の稼働時間が把握できれば、生産性を把握する第一歩になります。
原価の改善につなげる
原価管理の基本的な考え方は、標準原価の設定と実際原価の把握、そしてその差異を把握して分析し改善していく活動です。
ある程度のロット生産を行う製造業の場合、標準原価を設定し、差異を分析していくということが原価の削減、利益の拡大に繋がります。
また、一品一様の受注生産であっても、見積金額や見積もり工数を上回って作業をするわけにはいきません。見積もり工数以上に作業すると人件費が増えて原価を圧迫します。機械の作業時間が増えると、電気代である経費が増加するほかその機械を使って作業をしようと考えていた他の作業ができず機会損失になってしまいます。いずれの場合も利益を圧迫してしまいます。
必ず見積もり工数を作業前に提示し、作業者は予定工数通り、またはより少なく製造しなければなりません。そうすると、作業時間を正確に把握しなければ、予定工数よりも多かったのかどうかということすら分かりません。
このことからもわかるように、時間の実績把握というものは原価の把握に繋がり最終的には利益の拡大につながるのです。
■執筆者
山口 透 (やまぐち とおる) http://mt-brain.jp
株式会社 エムティブレイン 代表取締役。「経営とIT」のコンサルタント。業務改革や改善の指導やIT戦略企画立案の支援を行うコンサルタント。現在、IoTやAIを中心に経営とITの橋渡しをする社外CIOサービスを提供中。中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ
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