【第12回】今回も引き続き在庫の事例です
前回は事例を交えながら、在庫を管理するためには、どのように運用を変えるかという点と、どのようにシステム化していくかという2点に絞って書いていきました。
これを見た読者の方が、もう少し他の事例はないか、自社はこのような状態だがどうすればいいか、といった問い合わせを頂いたので、前回同様に事例をもとにした在庫の管理方法書いていきたいと思います。
端材の管理は難しいです。
まずは家具メーカーであるA社の事例です。
A社は木材と金具の部材を仕入れて、自社で木材を切断し穴を開け、金属部品を取り付けて組み立て家具を作っていく製造業です。
A社の主要材料は木材です。
一般的な家具は、ある程度の大きさが決まっています。3メートルを超すような大型の家具は殆どありませんし、30センチメートル以下の家具は雑貨メーカーが作るのを得意としています。A社は収納棚を得意とする家具メーカーです。このため、3メートルまでの木材を在庫しています。
この木材ですが、長さはある程度の大きさが決まっています。奥行きは切断機で切断しましす。使う部分によって厚みや奥行きを変える必要があります。
例えば、食卓のテーブルであれば食器を置く天板という平たい板があります。この長さは100センチメートルから180センチメートルというのが一般的ですが、厚みは3センチメートルから5センチメートルが多いようです。また奥行きは50センチメートルから90センチメートルが多いようです。
これはテーブルのデザインによって様々になります。このとき長さや奥行きは切断が容易です。ただし、5センチメートルの厚みを3センチメートルの厚みにするのは機械を使っても容易ではないと想像していただけると思います。
このため、厚みの場合はあまり変えることができず自社で加工するよりも木材メーカーで加工したものを仕入れる方がスムーズです。
こうなると、木材の在庫は、木の種類によって増えるだけでなく、厚みによって増えるため在庫の数量は膨大になるということがおわかりだと思います。
A社では長さや奥行きを変えて、受注をした家具を作るために切断機を使って木材を切ります。
材料を切断機の近くに持ってきて切断場所で作業を行います。木材を切ると残り部分が発生します。小さい場合は廃棄ですが、大きい場合は端材として再利用します。
端材の運用としては、端材が出た場合に、端材置き場に持っていくというのが正しい運用ですが、毎回の作業で多くの端材が出ます。またすぐ何分か後、後の作業でその端材を使うということが見えている場合や、予想される場合は、端材置き場に返さずに機械のそばに置いてしまいます。
これが木材の在庫数量を狂わせる大きな原因です。
またA社は購入した主材の木材は、1枚ずつ在庫管理を行っていました。
つまり発注をして入荷すれば1枚プラスでカウントします。例えば、10枚購入するとシステムの中では10枚あるという認識で進めます。端材を使うため、木材を使う数量が少ないことがあります。これに対応するため、一か月一回に棚卸行い、実際何枚あるかということをシステム上では修正していました。
発注はシステムに登録されている枚数を確認して行います。製品を大量に作る場合、システムに登録されている在庫枚数を信じて発注を行います。
こうすると棚卸直後は使用枚数の通り入荷することができますが、棚卸した日から20日も経った時点で発注すると過剰発注になることがあります。
作業現場の社員たちは、端材を使うことで無駄をなくしているという感覚です。端材を使うことで無駄な発注を少なくして、コストを抑えている認識です。
しかし発注側は残っている在庫数量を、システム上の数量を見て発注します。
システム上の在庫数量が、現物在庫と一致しなくなりシステム上の数量が信用できなくなると、倉庫に行って現物在庫を確認する手間が発生します。実際A社も現場に行って何枚あるか確認し、発注するという無駄な行為を行っていました。
これに対応するには、端材を考慮した在庫引き落としシステムを作るか、端材の数量をシステムに反映させるというようなことをしなければなりません
このためにシステムを使おうとすると大きな手間が生じてしまいます。
そこでA社は大量に発注する場合は、発注時点に発注数量を都度確認するようにしました。
都度棚卸行うといっても、倉庫に見に行くのは大変です。これを回避するために倉庫に Web カメラを設置し、何枚程度があるのかということを確認できるようにしました。正確な数量ではなく誤差が出ても良いという考えのもと、棚にメモリを付け、何センチ程度木材が積まれているかということを見えるようにして、何枚程度残っているかを把握することにしました。
これにより、倉庫に見に行くという行為がなくなっただけでなく、Webカメラでの状況を事務所のメンバーが把握できるようになったので、「少し木材が少ないのでは?」という気づきを得ることができました。
標準部品とそれ以外の管理です
次はロット生産も行い受注生産を行うという完成品を作っている機器メーカーB社の例です。
B社は標準製品と呼ばれる売れ筋の商品の売り上げが半分程度あります。こちらの場合は設計を綿密に行い部品の標準化を進めました。
標準部品の在庫は発注点管理を行い、部品がなくなると発注する方式を取っています。
在庫の問題が発生するのは受注生産品です。
受注生産品もできるだけ部品は標準部品を使うことを推奨しています。設計においては標準部品を考慮した設計により設計スピードが速くなります。全体の生産性効率アップ向上することができます。
また標準部品を使うことで、ロットで購入した部品を使うことにより全体的なコストを下げることができます
しかし問題が発生するのは、営業担当者がお客様の要望に応えたいと想いが強く、標準部品を使わないような設計になってしまう場合です。
この場合でも十分な利益が取れるならば良いのですが、お得意先によってはどうしても入り込みたいという想いがあり、受注金額を下げてでも取る場合があります。
営業的にはこの後この得意先に入り込み、継続的に受注ができれば問題ありません。
しかし、製造側から見ると、この時に仕入れた部品が次の機会以降に使われず、死蔵在庫となって残ってしまう場合があります。
このような部品在庫の管理は、仕組みやシステムで対応するのは難しくなります。
これには、営業と製造が密に情報を交換することが大切です。
そのためにも標準品の設計や特徴などを営業と共有できるようにするというのが大切です。
その手法として CAD データだけでなくお客様へ提案するときの資料などを製造と営業が共有します。
お客様と営業と情報を共有するためには、製図だけでなく完成品の動画や写真などで説明すると効果的です。
他には、スマートフォンを使ってリアルタイムに情報を共有する方法があります。営業がお客様へ訪問している時に、技術者が同行するのではなく社内からスマートフォンでお客様と営業の話に参加するのです。
具体的には LINE 電話や ZOOM などの Web 会議を使います。
お客様とのコミュニケーションは営業担当が行い、技術的な内容の回答は技術者が行います。
これは技術者の移動時間をなくし、かつ技術的な担保が取れ、さらにお客さんとのコミュニケーションもとれると言う良い方法です。
カタログを届ける製造業の部品管理です
営業と製造のコミュニケーションが悪いという例をもう一つご紹介します。
C社はある程度ロットがある組立製造業です。
何百という完成品のカタログをお客様に届け、カタログを見たお客様が電話やFAXで注文をします。
C社の完成品の部品は受注してから発注すると、中国で作っているものが多くリードタイムが1ヶ月かかるものがあります。このため多くの部品は社内に在庫をしています。
社内の部品在庫は棚割り帳で管理しています。また毎月棚卸行なっていますが、部品点数が何千種類にもなるため全部品できるわけではなく、主要部品だけを行っています。
また部品点数が多いため、管理を行っているのが仕入れ部門です。営業担当者と部門が分かれています。
仕入れ担当者は部品の残数量や金額を見ながら、仕入先別にロット単位の数量をまとめて発注しています。ロットまとめ前にすると値引きがあるためです。
もちろん仕入れ担当者が独自で発注するだけでなく、営業担当者からの受注見込みや受注予測を聞いて立てて部品の発注を行っていました。
しかし部品によっては数年間使われなかったり、死蔵在庫になったりしている部品があります。
この状況を引き起こす要因としてはカタログの商品が古くなっており、商品自体が入れ替えられたにも関わらず、製品に紐付いた部品が入れ替えられず、部品が不要になっていることに気が付かないことが要因でした。
また営業担当者と仕入担当者は、月2回のペースで会議を行っていました。このときに売上予測は営業担当者任せです。これをそのまま信用して仕入れ担当者が部品を発注していました。
この時に発注する単位は、仕入先のロット数に合わせて発注するため、営業の予測よりもはるかに多い仕入数量になっていました。
もちろん、仕入れ担当者も必要数量を確保するためには必要なことです。
営業担当者の予測もランク付けをしているわけではなく、おおよそ受注できるだろう、売れるであろうという内容の数値を報告してるだけです。
これに対しては、まずは需要予測の精度を高めることが大切です。そのためには得意先の情報をどの程度掴んでいるかなどを受注確度という呼び方で、需要予測の確率が高いかという情報共有を仕入れ担当者と行います。
受注確度が高い得意先に対する部品仕入れは、積極的に行います。しかし受注確度が低い得意先に対しては、リードタイムを考慮した納期の回答が必要です。
つまり予測精度の低い取引先には、納期が遅くなるということを理解してもらい、営業は受注予測の予測精度を高めていく、という文化を醸成することができました。
■執筆者
山口 透 (やまぐち とおる) http://mt-brain.jp
株式会社 エムティブレイン 代表取締役。「経営とIT」のコンサルタント。業務改革や改善の指導やIT戦略企画立案の支援を行うコンサルタント。現在、IoTやAIを中心に経営とITの橋渡しをする社外CIOサービスを提供中。中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ
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